🎙️ 第304回 圆桌派「不景気なのに物価だけ上がる——”食べていけない”と感じ始めた普通の中国人たち」

中国コラム

スーパーに行くたびに、なんとなく財布の紐が固くなる。それでもレジで払う金額はじわじわと増えている——そんな経験をしている人は、日本だけでなく今の中国にもたくさんいる。景気は冷え込んでいるのに、物価だけは上がっていく。経済学では「スタグフレーション」と呼ばれるこの現象が、2025〜2026年の中国で現実のものになりつつある。

圆桌派第304回は「不景気なのに物価だけ上がる——「食べていけない」と感じ始めた普通の中国人たち」というテーマだ。豚肉、野菜、卵、外食費——日常の食卓を直撃する物価上昇と、給与や売上が伸びない現実の板挟みになっている普通の人々の声を、4人が丁寧に拾い上げる。

📺 今回の放送ハイライト

窦文涛はまず、中国各地から集まった「最近の食費が高い」という声を紹介した。武漢の主婦、広州の飲食店主、北京の会社員——立場は違っても、「前より確実に高くなった」という実感は共通していた。梁文道は「物価の感覚は統計より正直だ。庶民の財布こそが最も敏感な経済指標かもしれない」とコメントした。

許子東は食品価格上昇の背景を分析した。気候変動による農作物の不作、輸送コストの上昇、そして人件費の増加——複数の要因が重なっていると指摘。「単純に政府が悪い、企業が悪いという話ではなく、世界的な構造変化の中で中国も影響を受けている」という客観的な見方を示し、感情論に流れがちな議論に落ち着きをもたらした。

馬家輝が注目したのは、飲食店の苦境だ。材料費が上がる一方、客足は減り、値上げもしにくい。「薄利多売」で生き延びてきた中国の外食産業が、今まさに転換点に立たされているという。「それでも毎日店を開ける経営者たちの根性と工夫は、本当にすごい」と敬意を込めて語った。

💬 注目の対話

窦文涛:「スタグフレーションって言葉、最近よく聞きますよね。日本も経験しましたよね?」 梁文道:「日本はバブル崩壊後にデフレに悩んだ。スタグフレーションとは少し違うが、「経済が停滞しているのに生活が苦しい」という感覚は似ている。日本がそこから学んだことを中国も参考にできるはずだ」

許子東:「一番気になるのは、若い世代が「節約のプロ」になっていることだ。拼多多(ピンドゥオドゥオ)で激安品を買い、外食を減らし、サブスクを解約する。それ自体は賢い選択だが、みんながそうすると消費全体が縮む。難しい問題だよ」 馬家輝:「でも節約の中にも工夫があって、それが新しいビジネスを生むこともある。ピンチはチャンスだよ」

梁文道:「物価が上がっても、「これだけは買う」というものが人にはある。コーヒー、スイーツ、ちょっとした外食——「プチ贅沢」の需要は意外と底堅い。企業はそこを丁寧に拾っていくことが大事じゃないかな」 窦文涛:「確かに。しんどい時ほど、小さな贅沢が心の支えになりますよね」

🔍 さらに深掘り

番組では「なぜ不景気なのに物価が上がるのか」を平易な言葉で解説する場面があった。梁文道は「需要が落ちているのにコストが下がらないから」と整理した。エネルギー価格、物流コスト、最低賃金の上昇——これらは景気に関わらず上がり続ける要素だ。その結果、企業は値上げせざるを得ないが、消費者はさらに購買を控えるという悪循環が生じやすい。

ただし梁文道はすぐに付け加えた。「スタグフレーションを「詰んだ」と見るか「乗り越えるべき局面」と見るかで、その後の行動が変わる。歴史を見れば、この種の局面を工夫と政策の組み合わせで乗り越えた国はたくさんある」。過去のケーススタディとして1970年代の米国や欧州が紹介され、「絶望する必要はない」というメッセージが明確に届けられた。

食の節約トレンドについても面白い分析があった。「自炊回帰」「農家直売」「共同購入(団購)」といった動きが全国で広がっているという。許子東は「コロナ禍で強制的に自炊を覚えた世代が、今度は意志的に自炊を選んでいる。食への関心が高まり、健康志向とも結びついて、これは長期的にはプラスの変化だ」と評価した。

🔑 重要なポイント

  • 景気低迷と物価上昇が同時進行——スタグフレーション的状況が庶民の生活を直撃
  • 食材・外食費の上昇は農業・物流・人件費など複合的な要因が背景に
  • 若い世代の「節約プロ化」が消費全体を縮ませるリスクと、新しいビジネスを生む可能性
  • 飲食店経営者の苦境——材料費上昇と客足減少の板挟み
  • 「プチ贅沢」の需要は底堅く、小さな喜びへの支出は維持される傾向
  • 自炊回帰・農家直売・団購など食の節約トレンドは健康志向とも結びつき長期的にはプラス

🇯🇵 日本への示唆と提言

日本も2022年以降、物価上昇に悩んでいる。エネルギー、食料、日用品——あらゆるものが上がる中で、賃金上昇が追いついていない。この点では、今の中国と日本が経験していることは重なる部分が多い。番組内で梁文道が言及した「物価上昇局面で求められる政策の組み合わせ」は、日本にとっても示唆に富む議論だ。

日本の食品・外食企業にとっては、中国市場での「コスト上昇+消費者の節約志向」という組み合わせへの対策を、自国の経験から逆輸入できる可能性がある。値上げの伝え方、プチ贅沢ラインの設計、サブスクモデルの見直し——日本企業がここ数年で磨いてきたノウハウが、中国でも通用する余地は大きい。

また、梁文道が示した「プチ贅沢の底堅さ」という視点は、日本のマーケターにも刺さるはずだ。しんどい時代こそ、小さな喜びを大切に設計する商品・サービスが輝く。価格ではなく「この体験にお金を払う価値がある」と感じさせる工夫こそが、これからの時代の競争軸になるだろう。

✨ まとめ

スタグフレーションという重いテーマを扱いながら、このエピソードは重苦しくならなかった。「節約の工夫が新しいビジネスを生む」「プチ贅沢は心の支えになる」「自炊回帰は長期的なプラス」——悩みの中に光を見つける視点が随所に散りばめられていた。それが圆桌派の持ち味であり、何百万人もの視聴者が毎回この番組を待ち続ける理由だ。

物価上昇や節約について考えたい方、中国の食文化・外食市場の変化に関心がある方、そして「しんどい時代をどう生きるか」を一緒に考えたい方——ぜひこのエピソードを観てほしい。笑いもあり、涙もあり、そして確かな希望が残る回だ。

🔖 基本情報

  • 番組名:圆桌派(圓卓派)シーズン7
  • MC:窦文涛(ドウ・ウェンタオ)
  • ゲスト:梁文道・許子東・馬家輝
  • テーマ:スタグフレーション——不景気でも物価が上がり続ける中国の食卓
  • 第304回放送

番組のコメント欄には、飲食店を営む視聴者からの声が多く届いていた。「毎日ギリギリでやっています。でも常連さんが来てくれる限り、続けます」というコメントに、スタジオの4人が静かにうなずく場面があった。数字や理論を超えた、人と人とのつながりの温かさ——圆桌派はいつも、そこに戻ってくる。それがこの番組の強さだと思う。

経済の波は大きく、個人の力ではどうにもならないことも多い。でも、番組を通じて伝わってくるのは「それでも知恵を出し合い、笑い合い、前に進む人間の力強さ」だ。物価が上がっても、食卓を囲む幸せは変わらない。今日の一食に感謝する気持ちが、実は最強の経済対策かもしれない——そんなことをこのエピソードは静かに教えてくれた。

コメント